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ただの友だち……だよ? PAGE1

last update Huling Na-update: 2025-05-14 09:36:13

「桐島さん、なんであんなに強いのかなー? 何か格闘技系やってるとか、麻衣は何か聞いてる?」

 佳菜ちゃんはズバリ、わたしが今感じたのと同じ疑問を口にした。やっぱり彼女はわたしと友だちになる運命だったのかも。ちょっとシンパシーを感じてしまった。

「ううん。だって、まだそういう踏み込んだ話は聞いてないもん。でも、小川先輩に訊いたら教えてくれそう。あとは……会長への愛なんじゃないかな」

「愛、ねえ。あたし、まだそこまでできるような相手には出会えてないわー。麻衣もでしょ?」

「うん……」

 実はすごく恥ずかしいのだけれど、わたしはこの二十三年間でまだ一度も本気で恋をしたことがないのだ。たとえば、クラスメイトのイケメンの男の子を「カッコイイな」と思ったことはあるけれど、その程度。それが恋なのかどうかはわたしにも分からない。

「でも、あたし思うんだけどさぁ。麻衣はともかく入江くんは絶対、麻衣に気があるよね」

「…………えっ?」

 わたしはまたビックリして、佳菜ちゃんを二度見した。というか、もし本当だったら、今日初めて会ったばかりの佳菜ちゃんにまで見抜かれてしまう入江くんの分かりやすさって……。

「それは……、わたしもだいぶ前から何となく気づいてはいたけど。そんなんじゃないと思う。入江くんがわたしに何かと世話を焼いてくれるのは、ただわたしが危なっかしくて放っておけないからで」

「そうかもしんないけどさぁ」

「わたしと入江くんは、ただの友だちだよ。少なくともわたしはそう」

 今までだって、わたしと彼はそういう距離感でやってきたからうまくいっていたのだ。彼のわたしへの気持ちを知ってしまったら、そして、わたしも彼に恋心を抱いてしまったら、その絶妙な距離感が崩れてしまいそうで怖かった。

「……う~ん、麻衣がそこまでキッパリ言うなら、あたしもこれ以上はツッコまないことにするよ。外野のあたしがやいやい言うことじゃないしねー」

「うん……。佳菜ちゃん、ゴメンね。気を悪くしちゃったかな」

「ううん、そんなことないよ。気にしないで。――あ、あたしここだから降りるわ。じゃあ、また後でラインするね」

 気がついたら、エレベーターは三十階に着いていた。

「うん。じゃあ、午後のお仕事もお互いに頑張ろうね」

 わたしがそう言うと、彼女は軽くファイティングポーズをしてエレベーターを降りていった。

「――入江
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     ――午後からは、実際に主任や先輩たちが秘書として働いているところをメモを取りながら見学させてもらうことになった。 会食のお供で会長と外出し、戻ってきていた桐島主任は給湯室で、お茶やコーヒーを淹れるところをわたしたち新人に披露して下さったのだけれど、それがすごくサマになっていてカッコいい。たかがお茶くみ、されどお茶くみ。これも立派な秘書の仕事なんだと改めて感服した。「昔は『お茶くみは女子の仕事だ』って言われてたものだけど、それって『女はお茶くみをやるくらいしか役に立たない』って意味だとは僕は思ってないんだ。ちゃんとこだわりやプライドを持ってやれば、これも立派な仕事になる。……まあ、僕自身が昔バリスタを目指してたからでもあるんだけどね。だから、お茶くみを軽々しく考えてもらいたくないんだ」「主任、バリスタ志望だったんですか? カッコいい……」 わたしは思わずこの人が黒いエプロンをして喫茶店のカウンターでコーヒー豆を焙煎(ばいせん)している姿を想像してしまい、心の声が漏れてしまった。「うん、高校生くらいの頃の話だけどね。……そんなにカッコいいかな」 主任は少し照れているように見える。こういう姿を「カッコい」と評されることはあまりないのだろう。「はい。どんな仕事にも真摯に向き合ってる姿、わたしはカッコいいしステキだと思います。それだけプライドを持って取り組んでらっしゃるんだな、と思って」「ありがとう、矢神さん。会長にもよく言われるよ。……コーヒーとかお茶ってね、けっこう奥が深いんだ。お出しする相手によって、好みも様々だから。濃さや温度、

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    「でも、そんな彼が今ではわたしが仕事をするうえでなくてはならない存在になってるの。人事部長の山崎さんも、貴女なら秘書に向いてると思ったから秘書室に配属したんだとわたしは思う。だから、慣れるまでは大変でしょうけど、お仕事頑張ってね」 会長のお言葉に桐島主任も頷かれ、わたしに優しい励ましの言葉をかけて下さった。「僕もそう思うな。あの人は、何も考えず適当に配属先を決めたりしない人だからね。矢神さんはそれだけ見込まれてるってことなんじゃないかな。別に僕や他の人たちの真似をする必要なんかないから、君なりに頑張っていけばいいと思うよ」「そうですね。わたしなりに頑張ってみます。会長、桐島主任、ありがとうございます!」 人事部長だけじゃなく、会長や主任もわたしに見込みがあると思って下さっているらしいと分かって、わたしはちょっと自信が湧いてきた。「それじゃ、僕たちはそろそろ出ないといけないので。――会長、参りましょう」「うん、そうだね。じゃ、行ってきます。――矢神さん、他のみなさんも。何か困ったことがあったら、何でも相談して下さいね。わたしは社員のみなさんあっての会長ですから、可能な限りはお力になります」「「「はい!」」」「はい……」 元気よく返事をした他の三人とは違い、わたしの返事には「本当にいいのかな……」という遠慮が混ざった。わたしは現在進行形で厄介な問題を抱えているから……。   * * * * ――そうこうしているうちに、お昼休みのチャイムが鳴った。「新入社員のみんな、この社屋(しゃおく)の近くに安くて美味しいお店があるから、私がランチごちそうするよ。一緒に行く人ー?」 小川先輩の太っ腹な提案に、わたし以外の三人が手を挙げた。「やったー! ありがとうございます!」「先輩、太っ腹ですね!」「ゴチになります!」「矢神さんはお昼、どうするの?」 一人だけ手を挙げなかったわたしに、先輩は訊ねる。遠慮して手を挙げなかったんだと思われたかな。「あの、わたしは友だちと約束してるので、社食に……」「そっか、社員食堂ね。ウチの社食はどのメニューも美味しいしお手頃価格だからいいよ。実は私も普段は社食派」「そうなんですね」「うん。じゃ、また午後からもよろしくね。――みんな、行こっか」「「「はーい!」」」 中には「矢神さん、また後でね」と親しげに声

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